フライト

この映画が分からない人は幸せなのだろうと思う。

それでも、分かるとしたら、それは嬉しいことだ。

家人と二人して内容を全く知らずに見始めたのだけれど、
デンゼルワシントンの演技が凄くリアルで。

身につまされる。

刑務所内のミーティングで喋る内容の一番好きなくだり。

「終わった、それで終わったんだ。まるで生涯のウソをつききったみたいだった。だが、それ以上ウソをつけなかった。」

嘘の人生の終わり。どんなに頑張っていようと、成功していようと、お金に恵まれていようと、立場があろうと。
あるいはこの主人公ウィップのように、何も知らない人からは英雄視されていようとも。
嘘の人生で得られれるものなんか、何一つ自分を支えてはくれない。
むしろ、無くさないように必死になればなるほど空しく、意味を失っていくものだと思う。
腕には自信があったのだろうパイロットとしてのプライド。父親から受け継いだ飛行機への愛着。
どうにか守ろうとして必死に虚勢を張り続ける主人公が、いくつかの出会いをきっかけに何かに気づいていく。
気づいても認めたくなくて、酒でごまかそうと頑張る姿は昔の自分を見ているようだった。

事故で亡くなったCAのトリーナが依存症だったというのには驚いた。
そして聴聞会でそのことを告げられた時が、ウィップのターニングポイントになったように思う。
ウィップは知らなかった。
二度アルコール依存症の治療を受けていたということは、
自分とは違い、正直に自分の病気を認め、懸命な生きる努力をしていたのだと知る。
それでも血液検査で陽性が出ていたのだとすればもしかしたら・・・と思う気持ちとそれを都合良く
利用できるんじゃないかと思う気持ちがわき上がってくるだろう。

だけど自分だけは知っている。本当のことは分かっている。

今まで自分が見ていた人たちも含めて、見えていた世界ががらりと変わる瞬間がある。
戸惑いを超えた衝撃、理解を超えた何かに対して、
畏れる気持ちが生まれて、初めて人は自分より偉大な力の存在を感じる。
そして自分の無力さを知る。

「底をつく」と言いますが、あれほど重大な事故も、恋人の死も、終身刑になるかもしれなという恐怖も、
「底をつく」には至らない。酒も薬も止めることが出来ない。

ウィップは嘘をつくのを止めたのではなくて、嘘がつけなくなった。
そのことが「底をつく」ということ。